彩都開発の破たんと住民犠牲
①
2008年4月初旬の一般新聞(関西エリア版)の第一面で、『都市機構が彩都・東部の開発撤退、中部地区も見通し立たず
-住宅需要見込めず」と大きく報道しました。
しかしその後、「彩都中部地域を低価格で販売」と赤字拡大の無責任な開発継続に執念を燃やしています。
都市再生機構(以下、「機構」という)の進める無謀な大型開発が地方の財政のみならず、国の財政破たんの主要な原因と
なっている事実が次々と明らかになっていますが、彩都計画はその典型です。
「必要のない」、「役に立たない」、「採算がとれない」という、3つの「ない」を絵に描いたような計画です。
今、この事実を茨木市民や大阪府民だけではなく、広く全国に知らせていく必要があります。
とりわけ強調したいのは国のいいなりになって無謀な開発を共に推進してきた大阪府や茨木市にも大いに責任はありますが、
「機構」 を使ってこうした見通しのないニュータウン事業を進めてきた最大の責任者は国です。
国が閣議決定でニュータウン事業からの撤退を進めるなら、その後遺症で苦しむ住民への生活支援と地方自治体の財政支
援で責任を取るべきです。
②
「彩都開発計画の破たんと住民犠牲」について述べる前に、この計画のあらましについて説明します。
彩都開発は北大阪の茨木市から箕面市の丘陵地域に、甲子園球場の180個分の面積約742ヘクタールを、主に企業の研
究開発施設と高級住宅を建設するためとして、都市再生機構(当時は都市基盤整備公団)を事業主体とする土地区画整理事
業によって、バブル後の1994年に本格着工し、造成工事が進められてきました。
またこの計画は機構が進めている大規模なニュータウン事業の全国的に見ても最後のものです。
彩都の現状は西部地区313ヘクタールの造成はほぼ完了。
2013年6月末現在の居住世帯は3,741世帯(茨木市2,472)、居住人口は11,035人(茨木市7,558)、就業人口は
約1,400人と言われています。
③
国が閣議決定で、「機構」が全国で実施している、いわゆる大都市圏ニュータウン事業を2013年度までにすべての工事を
終わらせ、さらに2018年度に事業を完了させるという方針を明確にしました。
この方針は国の「機構(旧公団)民営化」路線の具体化と言われています。
いま「機構」が全国で事業実施中の計画は48地区-施行(予定)総面積で9908ヘクタール(甲子園球場の約2,500カ所分)
にのぼります。
今順次、「機構」が個別の事業完了の具体的内容の発表を始めました。
その第1号が国際文化公園都市(彩都)であるといわれています。
上位5地区は表の通りであるが、彩都はその中でも2番目の規模を持つ計画です。
こうした中で、関係各地区では地権者をはじめ、地方自治体で事業の進捗状況により差はあるが、動揺と危惧の声が広がっ
ています。
とくに彩都計画の縮小及び事業内容の変更を地権者や地方自治体がどのような対応をするのかが全国で注目されています。
④
開発を進める口実は「単なる住宅開発ではない。ライフサイエンス分野の研究開発拠点をはじめ、国際的な学術研究・文化
交流拠点整備と合わせた複合都市を建設する」というものでした。
計画の上では居住人口5万人、住宅用地239㌶(32.1%)とともに、施設人口2万4千人、施設誘致用地205㌶(27.6%)
とされていました。
ところが実際には、企業研究施設地区に予定されていた地域もマンション開発地域に転用されるなど、施設人口のはりつきは
進んでいません。
一方、居住人口はモノレールの開通もあって、マンション中心に進みつつありますが、今後の見通しは不透明です。
こうした中で、中部地区では土地所有の民間企業救済と施設人口増のため、製造施設の建設も可能になるよう用途地域と事
業計画の変更が強行されました。
このようにすでに街づくりのコンセプトも破たんしています。
⑤
この開発は当初から公的な装いを凝らし、その費用の多くを税金投入によってまかない、万一破たんした場合は税金であ
と始末する体制が作られていました。
その内容は機構(当時・公団)が事業主体として土地区画整理事業を行い、開発地全体の1次造成を行う、ついで開発地
域のシンボルゾーンの整備は大阪府、茨木市・箕面市と阪急電鉄など民間企業共同出資の第三セクター-国際文化公園
都市㈱(2001年破たん-阪急に用地処分中)が担当し、その他の民間大規模土地所有者と同様に2次造成を行い、ただ
し個人地権者には2次造成済みの土地を換地することとしていました。
また開発区域外の道路、下水道などの公共施設や区域内の学校、保育所など公益施設は府や市が負担する事で進めら
れてきました。
こうして作られた枠組みの下に1994年に事業認可、本格着工-それから17年。計画の破たんと大幅な計画縮小により
新たな問題を抱えることとなりました。
しかしこうした経過をたどった地域は、機構が行っているニュータウン事業で多数を占めると考えられます。
国の大企業救済という失政の責任追及とその「あと始末」で責任を取るよう改めて求める必要があります。
⑥
機構が発表した資料によると彩都特定土地区画整理事業の準備段階から「2009年度」までに実施した事業の実績額は
合計約1157億円としています。
また「2010年度」から工事完了の「2011年度」までの西部地区における事業予定額は合計約159億円としています。
さらに引き続いて、中部地区造成工事に着手しました。
そして2013年度には工事を完了し、2014年度から2018年度の間に事業完了手続き行うとしています。
なお2013年1月21日付けで、東部地区は土地区画整理事業から除外されましたが、阪急な大規模地権者を中心に組合
施行土地区画整理事業の画策が水面下で進められています。
⑦
ここで彩都土地区画整理事業の仕組みを説明しますが、上段のグラフが事業施行前の土地の保有状況です。
下段のグラフは事業施行後の土地の保有状況です。
これが公共減歩の30%(102ヘクタール)、保留地減歩の20%(60ヘクタール)のために、すべての土地所有者の保有面
積は半分となります。
すなわち土地所有者は所有面積の50%を道路や公園など公共用地と整備費の財源を作り出すための保留地を提供するこ
ととなります。
⑧
「閣議決定」に基づき2013年度中に工事を完了するために、中部地区(開発総面積63ヘクタール、平場宅地面積約20
ヘクタール、内、保留地予定面積約18ヘクタール、機構実施推定造成工事費約160億円)は「開発リスクは都市機構が負う」
(日経新聞)として、強引に開発を強行しています。
そこで都市計画、事業計画、造成計画を見直し、今後確定画地における立地企業との契約締結し本格造成工事に着手して
います。
なお中部地区の土地所有の大半は阪急不動産㈱ですが、都市機構は2009年4月に「ニーズを反映した事業計画を進める
ため、進出意向のある企業のエントリーを募る」としました。
また募集の対象には工場、物流施設も加えました。
なお募集に対して、進出意向の業種は「自動車部品、金属製品製造業が最多」とライフサイエンス系研究施設とおよそかけ離
れたものとなっています。
2011年中に立地企業と用地分譲契約を結びましたが、物流倉庫建設を目的としたもので、その価格は6.1万円/㎡(株式
会社万代)です。
また2012年度取得契約の相手方はペーパーカンパニー(茨木特定目的会社)で価格も6.2万円/㎡です。
機構は土地区画整理事業の中部地区造成工事費160億円を保留地処分でまかなおうとしていますが、採算割れは必至です。
まさになりふり構わない開発姿勢です。
⑨
問題はこの事業について、多額の欠損金を計上する事が必至であるということです。
この事業の主な財源は土地区画整理事業により確保した保留地の処分金ですが、宅地需要の激減で処分はほとんど進ん
でいません。
因みに西部地区で2013年4月末現在の保留地指定面積は約57ヘクタール(最終は約60ヘクタール)、機構所有仮換地
指定面積は約20㌶(最終は22ヘクタール)ですが、処分済み面積は合計で約33.5ヘクタール(処分率42.3%)、処分価
格も平均で10万円/平方メートルで、当初処分予定価格24万円/平方メートルに遠く及んでいません。
このままでは資産の評価損により多額の欠損金を生じ、将来国民の税金で処理することとなります。
したがって欠損金を最小限にくい止めるためにも、今後予定している事業予定額を区画整理事業完了に必要な範囲で最小
限に圧縮させる必要があります。
⑩
緑色は保留地で彩都西地区で60ヘクタールを確保し、処分して整備費の財源に充てることとなります。
オレンジ色は機構が土地区画整理事業の採算性向上のために法人や個人の所有地を事前に彩都西地区で46ヘクタール
(仮換地時点では23ヘクタール)の転売を受けたものですが、その価格は約5万円/平方メートルといわれています。
したがって仮換地後処分価格10万円/平方メートルでは、採算性を向上させるどころかむしろ欠損金を増加させることとな
ります。
⑪
大阪府が彩都開発関連公共公益施設整備に投入した府負担額は10年度末でモノレール事業も含めて約334億円。
内一般財源が約100億円、起債が約234億円(推定)です。
これを今後20~30年間で返済することになりますが、当然金利も付くので、その返済総額は約450億円になります。
これを均等で返済するとなると単年度で約23億円となります。
⑫
茨木市が彩都開発関連公共公益施設に投入した市負担額は2012年度末で合計約107.4億円。
内一般財源が約47.5億円、起債又は機構の立て替え施行分が約60億円です。
これを今後約20年間で返済することになるが、当然金利も付くので、その返済総額は約120億円になります。
これを均等で返済するとなると単年度で約6億円となります。
茨木市は今後、公益施設として西部地区では消防署、市役所出張所。公共施設として地区内公共下水道、
区域外都市計画道路山麓線、国文3号線整備を予定しています。
大阪府も茨木市も自らの公共公益施設整備も当然一旦凍結をして、必要最小限にとどめることは言うまでもありません。
茨木市は、借金返済の財源を、開発地域に進出する企業や新たに住む住民からの税収からと当てにしていたが見通しを
大きく下回っています。
さらに計画縮小でこれに一層の拍車がかかることとなります。
またこれまで税金からの支出はほとんどないという事前の説明も、国や機構の財政難や採算の悪化から、学校建設などの
市の負担が増えてきています。
⑬
とくに問題なのは都市計画道路山麓線と国文3号線整備です。
現在の推計では総事業費は約54億円、財源内訳は国が約26.1億円、機構が約11.7億円、市が約37.8億円として
います。
すでに茨木市は道路用地予定面積の4分の3を、約18億円で先行取得しています。
またその内、中部地区に関連する道路整備は、総事業費が23.4億円。
財源内訳は国が11.7億円、機構が5.7億円、茨木市も5.7億円となっていますが、府道余野茨木線から中部地区に
つながる市道福井宿久庄線部分整備のためにすでに2.2㌶-4.6億円の土地を先行取得しています。
しかし東部地区の開発が中止になると、東部地区通過部分の整備は不可能となります。
それだけではなく茨木市は道路として用をなさない袋小路になるこの道路整備を、今だに継続しようとしています。
⑭
1970年頃。国文都市開発地域のうち阪急電鉄など民間企業の所有地(斜線部分)は総面積742㌶の70%にのぼります。
丘陵地域で最初に開発に着手(1970年)したのは昭和土地開発(関西電力と住友信託銀行共同出資)で、サニータウン
(126ヘクタール、3千戸、人口1万2千人)でした。
着工時点では大阪は「万博景気」にわきかえっていたが、まもなく第1次オイルショックに見舞われ、完成時点の74年では
地価が大幅に下落し、しかも開発地域の北よりの地域に存在が予測されていた活断層(馬場断層)により大規模な破砕帯を
伴っていることが明らかとなり、また全域の多くの箇所で湧水が確認されるとともに地下水位が高く、当初予定していた造成費
より、相当高額の経費がかかることになった事も相まって、この開発は大赤字となり、破たんの結末を、造成地すべてを当時
の住宅公団に買い取らせるという形での跡始末さえ画策されることとなりました。
さすがにこれは当時の日本共産党国会議員団の追及で失敗し、公営企業という性格を持つ、関電が直接的にはこうした開
発事業から撤退することとなりました。
⑮
開発地域742ヘクタールの具体的な所有状況は表の通りです。
70年代当初のその内訳は阪急電鉄など主要な6者が470ヘクタール、その他の大口所有者が41ヘクタール、個人の所有
者が206ヘクタール、道路、水路、里道等が25ヘクタールという内訳でした。
その後全体の土地所有者からライフサイエンス系企業の誘致のために33ヘクタール、機構を区画整理事業者にするために
109ヘクタール、3セク国文会社に92ヘクタールの転売が行われました。
そして1994年に機構が土地区画整理事業の認可をとり着工しました。
それはバブルがはじけた1991年の3年後です。
すでにこの時点で無謀な開発計画であったことは明白です。
それにも関わらず開発が強行されたのは、国の大規模土地所有者救済以外のなにものでもありません。
⑯
上記の図と表のように、開発総面積742ヘクタールの内、約70%の約510ヘクタールは大企業等の所有地でした。
その内、実に約320ヘクタールは阪急系の所有でした。
阪急はそのほとんどを1960年代後期に買収あるいは万博会場内所有地の換地として取得しました。
その価格は茨木市長が管理者を務める立会山(たちあいやま)財産区財産(84ヘクタール)の場合は平方メートル/2,300
円です。その他の個人所有地でも平方メートル/1万円以下と言われています。
財産区の土地を転売禁止の確約書を交わしているにもかかわらず、バイオ企業に転売したり、機構に約60㌶、国文会社に
は平方メートル/6万5千円で転売して利益を上げました。
今回の特別損失の計上は過去の評価益による特別利益の計上の一部を元に戻したに過ぎません。
⑰
日本共産党は1970年代から市議会内外で、国会議員団と共に取りあげてきたが、計画が具体化した1990年に、市民の
皆さんと「茨木北部丘陵地域の自然を守る市民会議」を結成し、「計画中止」を求めて、大運動に取り組みましたが、今やその
正当性が証明されました。
計画の破たんという新たな事態の中、ひきつづいて、「市民の会」を中心に、09年、10年と都市計画と事業計画変更に反対
して、意見書を提出しました。
⑱
94年1月11日付「市民会議」と「日本共産党茨木市会議員団」の彩都特定土地区画整理事業計画に対する意見書
(大阪府知事経由建設大臣宛)及び94年7月15日付建設大臣(野坂浩賢)回答通知の内容は次の通りです。(その後94年9月に国認可)
建設大臣回答-資金計画書の内容は適正なものと認められる。
建設大臣回答-複合都市機能の形成、定住性豊かな住機能を確保するために適切なものと認められる。
建設大臣回答-直ちに不適切とはいえない。
建設大臣回答-保留地の予定価格は不動産鑑定士による鑑定調査によって、算定されたものであり適正なものと認められる。
建設大臣回答-公園・緑地を系統的に配置した事業計画になっている。
いずれの回答内容も誤りであることがその後の事実で証明されています。
⑱-2
(意見書趣旨と内容要旨及び建設大臣通知要旨)
◎意見書趣旨
彩都中部地区における事業計画の変更について、「変更すべきではない。
即ちこれらの無謀な彩都中部地区事業計画変更を中止して、文字通り『計画中止』を強く求める」
意見書内容要旨
①西部地区の現状からして、中部地区の事業採算性が成立する見通しは皆無で、ひいてはまちづくりや大阪府や茨木市・
箕面市など地方公共団体の行財政に重大な支障となることは必至である」
※国交大臣回答-資金計画書の内容は適正なものと認められる。
②「誘致施設用地として、国際文化施設地区?.?.が計画され、種々の募集手続きはなされていますが、契約成立は経済
情勢の激変で流動的で、そのリスクを「機構」が負うとしていますが結局、国民の税金で後始末することになる」
※国交大臣回答-事業計画は都市計画の定めに反するとは認められない。
いずれの回答内容も誤りであることがその後の事実で証明されています。
⑱-3
2013年1月末に、彩都特定土地区画整理事業の事業主体であったUR都市再生機構が事業から撤退しました。
本来なら彩都開発地域でもっとも面積が大きい東部地区(367ヘクタール)は開発から除外して、事業は今すぐ中止すべきです。
ところがこの地域の土地を所有する民間ディベロッパーは開発地域を3つに分割して、北エリア(紺の点線)から組合施行による
土地区画整理事業を画策しています。
この計画づくりに、彩都建設推進協議会に参加している機構や大阪府や茨木市が中心となって、民間開発の旗振り役を務める
のは問題です。
分割して開発を進めると道路等インフラ整備でも、造成方法でも町全体の一体性や整合性でも乱開発になるのは必至です。
自然環境を守り、住民犠牲を阻止するための一層の取り組みが求められています。
⑲
「彩都土地区画整理事業と関連の公共・公益施設整備については一旦凍結をして、新住民や個人地権者など住民合意で、
事業の継続を」を提案しています。
中部と東部地区はこれ以上の事業の赤字拡大と地方自治体の負担をふやさないために当然中止するのは言うまでもあり
ません。
また地方自治体が行う予定だった関連道路事業等も全体計画縮小に合わせて中止するのは当然です。
とくにこれから行う西部地区内での機構の土地区画整理事業と地方自治体の関連事業は関係住民や個人地権者など合意
の下、事業の赤字額を最大限圧縮するとともに、国に事業破たんの責任をとらせ、過去の地方自治体の関連事業や新たに発
行する地方債や立て替え金の返済期間延長や利子額を補填させることを提案しています。
⑳
彩都開発区域には、多数の活断層が存在し、断層の影響範囲は広く存在しています。
31メートル以上の髙盛土地域も存在しています。
したがって、建築物に対する細心の注意が必要です。
(21)
ごらんいただきありがとうございました。
いずれにしても土地区画整理事業はリスクの多い手法です。
それを知りつつ推進してきた国と機構、積極的に参画してきた地方自治体。
結局、今回の破たんで影響を受けるのは府民、市民、個人地権者、新住民などです。
今こそ、その原因を明らかにすると共に、適切な措置と対策を求めましょう。
ぜひご意見を数多くお寄せください。